写真●POPPO.NET 取材・文●POPPO.NET
上武連盟最強フライターの1人・高柳芳男氏は、実に11回の総合優勝を誇る。その多くは彼が主眼におく当日レース。つまり中距離で手にしてきたものだ。だが長距離に実績ある鳩友たちとの交流により一念発起! 2009年より目標を900Kに設定する。そして今春、中距離フライターとしての性(さが)に抗い、東日本CHを照準に調整。見事、連盟優勝を果たした上、連盟最優秀鳩舎賞、そして獲得すら困難な全国タイトル「地区CH賞」まで手にする。それは、中距離専門でありながらGN総合優勝を含めオールランドに勇躍した“全盛期”を彷彿させるものであった。
専門は目下、当日帰りのレースである。CHでの総合シングル、1997年にはGNを制してはいるが、やはり力のいれどころは400K~700K。総合優入賞の大半は中距離で手にしてきた。上武連盟最強中距離フライターとして君臨してきた高柳芳男鳩舎が、とみに正反対のベクトル――900K、そして1000Kを意識するようになったのは、ここ3、4年のことである。きっかけは鳩友たち。とりわけ、1976年に日本伝書鳩協会主催の委託鳩舎で長崎CH1000Kを制し、以後委託鳩舎において無類の強さを誇る新井博久氏(群馬セントラル支部)との交流、そして古くからの鳩友・膳 宗雄氏(群馬中央北連合会)の西関東CH総合優勝が大きく影響したようだ。
「新井さんはもともと長距離が強い人。2005年あたりから共同作出する仲になって、1000Kの話をよくしていた。昔と違い、今は自動で記録してくれるし、それならちょっと力を入れてみようかなと思っていたら、膳さんが2008年に西関東CHで総合優勝。周囲の盛り上がりを見て、本格的に狙っていこうと思いました」。
昔ならイケイケでも成績がついてきていたが、近年のレースは難しい展開が多く、そのスタイルだけではうまくいかない。事実、好レースに恵まれた年度以外では辛酸を舐めてきた。900K、1000Kを確実に狙うのであれば、しかけるのを遅くするのがベターだが…。
「わかってはいるんだけどレースがはじまっちゃうと、どうしてもいじりたくなってしまうんですよ(笑)」。
長年染み付いたスタイルを変更することは言葉にするほど簡単ではない。長距離へのシフトを試みたものの、2009年、2010年、2011年とハイライトはやはり中距離だった。そこであるニュースが飛び込んでくる。2012年春からCHの主催が西関東ブロックではなく関東地方部で開催されるというのだ。東日本CHといえば、49年の歴史と伝統を持ち、世界に誇る長距離レースである。このクラシカルレースでの参戦が大きなモチベーションとなった。
「ここ(群馬県)で上位に入れることは難しいけど、やはり全関東が舞台とあって、参加できるだけでわくわくしますね」。
今春こそは長距離狙いでいく――。東日本CH参戦ということが高柳氏に強い信念をもらたした。200K、300K、そして400K、Rgといずれも鳩なりで仕上げることに成功する。ちなみにそれでも400Kでは総合8、9位、Rgでは総合3位に入賞! このうれしい誤算は、若鳩時に徹底的に鍛えこんだから起きたのかもしれない。
さて狙うレースで勝つためには、1つ前のレースからいじっていくのが常套だ。高柳氏は東日本CHの1戦前、地区Nから仕掛けた。舎外を自由から強制に切り替え――といっても実質追ったのは、最初の2日間だけ。あとは旗を立てるだけで「ビュン、ビュン」飛んでくれた。非常に飛びが良く、目一杯ではないにしろ、かなりの状態で持ち寄れるだろうと思っていた。だが当日、掴んでみてそれは裏切られる。内地とはいえ、600Kで上位に食い込ませるには、微妙なコンディションだったのだ。だがここで彼にとって朗報が入る。天候不順のため、レース自体が中止、持ち帰りとなった。
「不謹慎ですが、正直良かったと思いました。これでもう1度仕上げられると。戻って再び飛ばし込みましたね。距離が600から700に変わりましたけど、今度はいい按排で臨むことができました」。
結果、今シーズン初の連合会制覇。総合でも3位に入り、かつダービーも連盟トップを獲得する。順調な成績だったものの、総合優勝を狙っていただけに高柳氏的には残念な気持ちがあったようだ。
ファイナルに臨むにあたって、メスがオスに比べ大幅に残ったため、普段のナチュラル方式でなく分離を選んだ。オスは最初の1週間を自由に飛ばし、翌週はヒナと一緒。3週目以降は完全休養に入った。対し、勝負のメスは順調に舎外を飛んでいたものの日を重ねるごとに悪くなっていく…。これには不安を感じていたが、ある1羽の存在が
ヴィーナス
10JA08786 BC ♀ 高柳芳男鳩舎作翔
2012年上武連盟長距離エースピジョン賞1位
東日本CH900K上武連盟136羽中7位
上武地区N700K555羽中総合14位
上武Rg500K832羽中総合3位
2011年秋上武秋華賞450K総合2位
父)98HH03023 B 高柳芳男鳩舎作翔
上州連盟エースピジョン賞1位
若鳩CH1位(ローセンス・ヤンセン)×
300K優勝(ローセンス系)
母)08JA07575 BC
新井博久鳩舎・高柳芳男鳩舎共同作
高柳鳩舎使翔 地区N700Kまで飛翔
祖父)NL03-0381616 B C=コーニング作翔
クレイル、ベルジュラック各入賞
純カイパー系×G=コウタース父子作
祖母)06DA3z9895 DCW 新井鳩舎・高柳鳩舎共同作
ブールジュ(1979年ブールジュN79位)×
ヤン=ヘルマン作サンバンサン、ベルピナン各入賞
直子/つくば国際鳩舎
日本選手権500K全国3位
ボリュート・モンロー
95HH21291 B ♀ 高柳芳男鳩舎作翔
1997年春西関東GN1,000K934羽中総合優勝
父)84TH7019 B 高柳芳男作翔
ローセンス作モンロー直子×フリューの曾孫
孫/上州Rg総合優勝、西関東GN上州連盟2位
母)93ZB44582 B 小保方伸吉鳩舎作
ヨングメルクス曾孫
高柳氏を勇気づけていた。それは昨秋の秋華賞450K総合2位鳩にして、今春のRgでは総合3位。地区Nでも総合14位に入賞した俊鳩で、なおかつ自鳩舎において黄金の配合式「ローセンス×ファンデヒーデ」で創出された1羽だった。彼のローセンスは鳩友であり、クラウン賞鳩舎・田辺兄弟(群馬中央連合会)が確立した‘田辺ローセンス’と系源が全く同じ。かつ代々エースピジョンを生んできた筋で、あの田辺鳩舎も認める威力を誇る。一方、いまやベルギー中距離界最強と謳われるファンデヒーデの銘血もまた、高柳氏の下で抜群の切れ味を発揮し、数々のスピードチャンピオンを輩出してきた飛び筋中の飛び筋だ。「安定感×切れ味」という交配に新井博久氏の超長距離血統をプラス。翔歴、血統はもとより、鳩自身のボディからも近年の高柳鳩舎において会心作といえるメスだった。
そして迎えた運命の東日本CH。この伝統の長距離レースで、高柳氏はF地区5位、連盟では見事優勝を達成。しかもトップ10内に3羽叩き込み、今や狭き門となった地区CH賞への道を切り開く。果たしてトップにきたのは――期待のトリではなく、成鳩のオスだった!
「まさか休んでいたオスがアタマに来るなんてね(笑)。鳩はわからないもんだよ」と笑うが、この1羽もまた地区Nで4番手――総合15位を収めた俊鳩で、なおかつ“ローセンス”、は“ローセンス”でも自身の代表鳩“ボリュート・モンロー(1997年西関東GN総合優勝)”を産んだ筋。そこにまたもファンデヒーデ――ブールジュN約67,000羽の頂点にたった「アームストロング」の銘血をクロスと、つまりこのトリもまた、黄金の配合式で創出されていた。ちなみに“コラージュ”と名付けられたこのヒーローは、ベルギー王立愛鳩家協会(KBDB)会長賞・上武連盟1位、そして北関東地区8位にも輝いている。
ところで高柳氏が推していたメスだが、実は期待を裏切ってはいなかった。2番手で帰還を果たし総合7位に入賞。かつベルギー王立愛鳩家協会(KBDB)会長賞2位、そして上武連盟の長距離エースピジョン賞では1位に選出されている。期待の鳩が活躍する! 鳩飼いの醍醐味なだけに、高柳氏の喜びは格別だったはずだ。
400K以降全て総合一桁台に叩き込み、充実な春を演出した高柳氏だが、連盟タイトルでも中距離エースピジョン賞以外全てにエントリー。先述のベルギー王立愛鳩家協会(KBDB)会長賞、連盟長距離エ
ースピジョン賞は然り、最優秀鳩舎賞でも堂々1位に輝く。そして今月発表された地区CH賞では、実に7年ぶりの選出! 怒涛のタイトルラッシュは、まるで1998年、1999年、高柳氏が最も勢いがあった頃のようである。中距離から長距離狙いの管理へのスタイル変更は、自身2度目の円熟機に導く大きなヒントとなったに違いない。
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【2012年春・高柳芳男鳩舎の活躍】
★関東地方部主催東日本CH900K | 136羽中上武連盟優勝(連合会優勝)、7位、8位、23位 |
★上武連盟主催地区N700K | 555羽中総合3位(連合会優勝)、7位、14位、15位、16位 |
★上武連盟主催Rg500K | 832羽中総合3位、12位、40位、42位、55位、56位 |
★上武連盟主催アジア鳩協連盟会長賞400K | 936羽中総合8位、9位、23位、25位 |
★上武連盟主催やよい賞300K | 1,376羽中総合26位、32位、34位 |
★上武連盟主催スプリント200K |
1,999羽中総合7位、8位、10位、17位、28位、29位 |
★個人タイトル |
上武連盟最優秀鳩舎賞 愛鳩の友誌地区CH賞 |
★鳩賞 |
ベルギー王立愛鳩家協会会長賞北関東地区8位 上武連盟長距離エースピジョン賞1位 協会賞2位 |
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