写真●POPPO.NET 取材・文●POPPO.NET
総合優勝の数は10回を優に超える。地区CH賞の受賞歴もある新潟の強豪・羽深 茂氏は、ハイスピードレースとなった今春の地区Nで総合優勝を飾った。羽深氏は、2010年の夏に原因不明の病に侵され、一時は「引退」を考えるほどまでに悪化…。それだけに今回の勝利は感慨深いものだ。しかも叩き出した分速は全国トップ! 殊勲のヒロインは、師事をする北陸の重鎮・藤井孝彦氏から導入したトリをベースに練り上げた2つのスピード血統――ゴールデンカップル「羽深クィーン×サンタル96」と「レッドウルフ」で構成。まさに血統の勝利だった。
「1レースでも多く戦うこと。それが今春の目標でした」。
新潟連盟を代表する強豪・羽深 茂氏は、2010年夏に原因不明の病に襲われた。それは関節に激痛を伴うものであり、トリの調教はおろか、動くことすらままならない。痛みとの闘いは、鳩レースとの決別を迫るほどのものだったという。
「とにかく痛みがすごくて…。鳩舎にもあがれないほどでした」。
が、ピジョンスポーツの世界には現在の日本に失われつつある「支えあい」がある。鳩友たちの献身的な支援があって、「引退」という最悪の結末は逃れることができた。さらに秋レースを迎える頃には、多少のサポートを要するも参加できるまでに回復する。とはいえ2010年、2011年生まれの若鳩には調教らしい調教はもちろんしていない…。200Kで6位、9位と健闘を見せるが、例年のような切れ味が発揮されることはなかった。
春レースはサポートなしで臨むことができたが、レーサーの基礎体力、順調に回復しているとはいえ自身の体調にも不安があった。生粋の飛ばし屋の羽深氏にとって苦渋ではあったが、勝つことより「参加すること」を優先にする。
といっても調整は手を抜くつもりなど毛頭ない。普段通りの管理を心掛けるも100K、200K、300K、Rgと4レースを消化した時点で連合会のシングルは1度もなし…。低空飛行は続いた。そして迎えた地区N。調整方法は例年通り、帰還後4日間は休養させ5日目に水浴びをさせた後に舎外を再開。持ち寄り4日前から脂肪分をプラスし、3日前には40Kの訓練を打つ。ここでうれしい誤算が起きた。舎外の飛びがすこぶる良くなった上、持ち寄り時のコンディションが非常に良好だったのだ。レースを重ねたことでトリが絞れてきた影響なのか。展開次第――スタミナを多く要しないスピードレースなら上位入賞もありえると、羽深氏の期待は膨らんだ。
レース当日、放鳩されて6時間も満たないタイミングで、40K手前の鳩舎が帰還したという情報が入る。
グランプリヒーロー
09FB06285 BC ♂ 羽深 茂鳩舎作翔
2010年羽越ブロック連盟GP551羽中総合優勝
父)03FB00148 BC 羽深 茂鳩舎作翔
2004年春新潟Rg889羽中総合優勝
ゴールデンカップル‘サンタル96×羽深グランドクィーン’孫
異母兄弟の直子/レッドウルフナショナル
母)03FB00823 B 羽深 茂鳩舎作翔
2005年新潟地区N総合4位 羽越GP総合7位
プリンス近親
羽深グランドクィーン
91FB11667 BC ♀ 羽深 茂鳩舎作翔
1993年羽越ブロック連盟GN839羽中総合優勝
孫/2004年春新潟Rg総合優勝
曾孫/レッドウルフナショナル
父)89FB22023 BC 羽深 茂鳩舎作
祖父)87RA10116 BCW 藤井孝彦鳩舎作
ローセンス系 直子/笹川賞
祖母)PandP 81HK5387 BC 藤井孝彦鳩舎作
羽深鳩舎基礎鳩 プリンス×プリンセス
母)NL89-2945009 B J.V.エーケレン作
ヤンセン系×ヤン・アールデン系
「これを聞いてスピードレースになったと思いましたね。これなら速く帰ってくるとすぐに鳩舎に向かいました」。
まもなくして北陸鳩界の重鎮であり、幼少の頃から親しい藤井孝彦氏から電話が入る。
「今日はレースをやってるの? だとするとかなり分速がでそうだね」。
藤井氏といえば、鳩歴半世紀以上の大ベテランだ。彼の言葉が羽深氏の‘予測’を‘確信’へと高める。すると間もなくだ。帰還のアラームが鳴った! 羽深氏は電話を切り、自動入舎機をチェックに走る。打刻時間は12時26分だった。聞いた情報が正しければ確実に逆転している…。分速早見表を見ると1700メートルを超えていた。手ごたえはなかったというと嘘になるが、後続にまくられた経験は何度もある。しかもトリの体力不足という不安要素もあり、シングルに入れれば良しと思っていた。が、蓋を開けてみれば後続を30メートル以上ブッちぎっての完勝! 期待以上の結果であった。
「総合優勝できるとは夢にも思わなかった。しかし勝てたのは間違いなく血統の力でしょうね」。
「レッドウルフナショナル」と名づけられたこのチャンピオンは、1994年に羽越GN総合優勝 をもたらした羽深鳩舎会心の1作「羽深グランドクィーン(プリンス×プリンセスの孫)」と藤井孝彦氏がこのヒロインの相方にと、自らセレクトした「サンタル96(サンバンサンN万羽優勝×タルベN万羽優勝)」のゴールデンカップルから誕生していた。このペアは中距離レースで、かつ高分速に強いという特性を持ち、あまたの総合優入賞鳩を輩出。とりわけ直子の「クィーン344」はレーサーとしてもブリーダーとしても秀逸で、子(2004年春新潟Rg総合優勝)・孫(2010年羽越GP総合優勝)の2代にわって総合優勝鳩を生み出している。またこの栗色のチャンピオンは、羽深鳩舎もう1つのスピードラインにして郵政大臣賞全国優勝を生み出した源鳩「レッドウルフ(ベルジュラック最高分速の異母兄弟)」の近親でもあった。
もともと羽深氏は近距離地帯であるため、突出したスプリント力、かつ純粋にスピードを競い合えるレース――600K~700Kに強い鳩作りを目標にしてきた。属
性が同じこの2大飛び筋の融合によって誕生した「レッドウルフナショナル」は作出者の意図を大いに体現したレーサーだと言えよう。レース鳩にとって全ての祖はカワラバトであるが、このオリジンを時代時代の競翔家たちは自らの手で改良し、独自の「レース鳩」を追求し創造してきた。これこそがピジョンスポーツの歴史であり、何よりの醍醐味である。ある業界誌の調査では羽深氏のマークした1,705メートルという数値は、今春の地区Nにおいて全国ナンバーワンのスピードだという。逆境に立たされながらも自身が練り上げた飛び筋で総合優勝、かつ「全国最速」を叩き出した羽深氏は、それを強く実感しているに違いない。
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【2012年春・羽深 茂鳩舎の総合レースにおける活躍】
★新潟連盟主催地区N600K | 719羽中総合優勝(連合会優勝)、42位、45位、46位 |
★新潟連盟主催Rg400K | 934羽中総合119位 |
★新潟連盟主催SC200K | 1,174羽中総合42位 |
★鳩賞 | オランダ伝書鳩協会会長賞北部地区優勝 |
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