写真●POPPO.NET 取材・文●POPPO.NET
日本鳩界をとりまく環境の変化により自身で飛ばすより「委託して飛ばす」という新たなスタイルが流行している昨今。埼玉県川口市に鳩舎を構える福田佰和(はくわ)氏もまた「委託して飛ばす」という形で鳩レースを楽しむフライターだ。スピードバードで長距離を凌駕することを目標とし、2008年に東日本CH当日中地区唯1羽帰り完全優勝、2010年には飛翔会CH総合優勝するなど、独自の配合感で理想のフォーム――長距離スピードバードを次々に輩出。選手にしても種鳩にしても余りにも高い勝率を挙げることから“委託の魔術師”とまで呼ばれている。今年は福田鳩舎作の種鳩(バンスクーリス系)から平成千葉連盟の地区N総合優勝鳩が生まれるなど、その勢いはとどまることを知らない。基礎鳩となる素材を見抜き、かつそれを上回るトリ――レーサー、ブリーダを作りだす。今、注目の作出家に迫る!
鳩レースをしたいけれどできない――。愛鳩家以上競翔家未満という人が年々増加している。その大半が住環境や仕事の都合などの不本意なものばかり。そんな彼、彼女らの拠り所といえば、自分の代わりに飛ばしてくれるサービス――委託鳩舎である。近年、名作出家として人気を博する福田佰和(はくわ)氏もまた、仕事が多忙すぎるがゆえ「委託鳩舎」という選択肢を歩まざるを得なかった1人だ。
鳩の飼育歴は長く、はじまりは小学生にまでさかのぼる。ただしレースを始めたのは、30代に入ってから。東京西部連合会でデビューを果たし、まもなくハイレベルな場所を求め、1999年に鳩レースのメッカ・埼玉連盟に移籍する。約4年間、地元で作出の達人として知られる戸塚俊男氏(埼玉連合会)の下で競翔、作出の基礎を勉強。2006年に東京中連盟の新日本連合会に籍を移し、総合シングル入賞を果たすなどの活躍を見せるが仕事の都合によりわずか1シーズンで中断…。これを機にやむなく委託専門、つまり作出専門鳩舎となる。スピードバードでかつ1000Kまで通用する鳩作りを目標に2007年リスタートを切った。
いわゆる長距離スピードバードである。その雛型が早くに誕生した。2008年春シーズン、当時地元では知る人ぞ知る飛ばし屋・高橋三郎鳩舎(埼玉南部連合会)に委託した1羽が、東日本CHにて埼玉連盟中地区当日唯1羽帰りの完勝を果たし、連盟のエ
▲種鳩鳩舎は自宅(東京都江東区)から離れた埼玉県川口市安行IC入口付近にある。設立当時は、周りに何もなかったため、ここで鳩レースに打ち込む予定だった。がしかし、まもなく住宅があちこちに建ち、閑静な住宅街となっている。そのためレースの参加を断念。作出のみの鳩舎となっている
ースピジョン賞1位に輝いたのである。「CHボリュート」と名付けられたヒーローは、かの世界的銘鳩「フィーネケ5000(ブラックプールオリンピアード代表鳩)」や「オリンピアード062」を産みだしたフェルホールト作にヤンセン、ルーテンツ、クリスチャンといった純然たるスピード血統のみで構成されていた。
つまり自身が理想とする形――長距離スピードバードだったのである。初めて体現したこのチャンピオンは、福田鳩舎の看板鳩として今なお君臨している。
雛型の誕生を機に福田鳩舎の作出家としてのブレイクが始まった。2009年春、全国屈指の飛ばし屋として著名な山口
宣之氏(ニュー東京連合会)の下で看板鳩「CHボリュート」の同系が飛翔会CH総合10位入賞すると今度は他鳩舎、別系統で千友会GP総合5位。ジャパンカップでは選手鳩――ではなく、彼作の種鳩から総合9位、千葉ゾーンで2位の俊鳩が誕生する。
そして迎えた2010年春、「CHボリュート」に継ぐ新たな看板鳩――長距離スピードチャンピオンが生まれた。それは山口氏に委託した1羽で強豪も必ず活躍すると太鼓判を押していたトリだった。覚醒したのは、前年に総合10位と実績を残した飛翔会CHにて。1番時計を打刻し、連盟内において後続を30メートルちぎるスピードで総合優勝したのである。
「プレシャス」――宝物という意味でつけられたヒロインは、「CHボリュート」と同じフェルホールトの飛び筋にヤンセン、ルーテンツ、クリスチャン、そこにプロス=ローザンの「コンピューターⅠ」「コンピューターⅡ」を生み出した銘血であり、あの岩田誠三氏が異血として導入し成功を収めた「ソーンチェス」をプラスし、よりスピードに特化した血統構成になっていた。また配合的には「ラプターⅠ」と「クレヨネ236」の福田鳩舎のフェルホールト系ゴールデンカップル――「CHボリュート」の全兄弟に「ラプターⅠ」の異母兄弟をクロス。緩やかな近親交配で創出されたトリである。タイプ的には肉質と翼の巻き込みは父方のクリスチャンから、ボディの作りは母鳩「Big mama」から継承されているなど、偏ることなく系統のあらゆる特性が出ている。
とりわけ母鳩のボディを受け継ぎなおコンパクト化に成功したところは、福田氏の思惑通りだった。もともと彼の種鳩――メス鳩に関しては「Big mama」然り、オスクラスのサイズのトリが多い。「サイズ=活力」とはっきりと断言こそできないが、スーパーなメスの種鳩は総じて大きいことから、そのように意識して導入ないし作出している。ただし他鳩舎に預けて飛ばす場合、活躍鳩の多くは中の小から小であるため、いかにコンパクト化を図れるかを課題としていた。それだけにこの「プレシャス」の誕生は、作出家として確かな手ごたえを与えたようである。また血統構成も然り。今まではアウトブリードを主流としていたが、近親交配での成果であるがゆえライン化に着手する大きなきっかけとなった。
以降、彼作のレーサー及びブリーダーはワンロフト内での優勝はもちろん総合レースでも一桁入賞を続けた。ライン化に着手した「CHボリュート」「プレシャス」――フェルホールト系ゴールデンカップル「ラプターⅠ×クレヨネ236」はもちろんのこと、その異血として採用しかつ独立の飛び筋として活躍する第2の基軸・ヤンセンライン、そして本筋とは離れた素材をアウトブリードして作られたトリも大活躍。その代表は2011年春の平成千葉300Kレース総合優勝、同年秋のつくばね菊花賞最高分速、そして今春の平成千葉地区Nでの総合優勝であろう。とりわけ今年のナルボンヌINで最高分速をマークした銘血――ベルギー鳩界最強の1人とされるアンドレ&パトリック=デズメットのゴールデンカップル「デン・ツール(KBDB長距離ナショナルエースピジョン賞2位)×ミス・ワールド(オリンピアード代表鳩)」と「ヨングロナウドⅢ×ファーストレディ」のラインは爆発的な活躍を見せており、福田鳩舎第3の本筋として期待される。かくにも少数精鋭でありながらいかなる配合パターンでも活躍してしまうため、「委託の魔術師」
シャンテリー22
05MM04322 BC 福田佰和鳩舎作
福田鳩舎ヤンセンライン代表種鳩
孫/2009年春東京GP総合9位
父)03MM04273 DC 永井 勇鳩舎作
祖父)ヨングシャンテリー
B98-6278059 BC ヤンセン兄弟作
ヤンセン兄弟最後のCH‘シャンテリー’の直子
祖母)ヨングドンカーフォス
B95-6274318 ヤンセン兄弟作 ド019孫
母)シャンテリー017 99ZB21017 BC 永井 勇鳩舎作
祖父)ヨングシャンテリー
B98-6278059 BC ヤンセン兄弟作
ヤンセン兄弟最後のCH‘シャンテリー’の直子
祖母)96XA03193 BC 大田誠彦鳩舎作
シャレル×マリカ
として周囲から一目置かれている。
そもそも彼の作出に対するスタンスは、非常に理にかなったものだ。種鳩の選定はネームバリューでなく鳩個体、血統として活性している飛び筋――旬鳩であるかどうかを重視。むろん「CHボリュート」、「プレシャス」を創出した「フェルホールト」の種鳩陣も血統として最も勢いのある時期に導入されている。作出についても単に能力をレーサーとして継承させるのではなく、幹――基礎鳩クラスのトリを作るというのが目標だ。実際に「CHボリュート」、「プレシャス」、そして今春の平成千葉地区N総合優勝鳩にしろ、活躍鳩の9割方の親は素材の代落ち、つまり福田鳩舎作から生まれている。
とはいえ言葉にするのは簡単だが、いかにいい素材を手にしようともそれを正しく継承させ、かつ親を上回るトリを生み出すことは非常に難しいことだ。
しかし福田氏はある法則を用いて、親超えのブリーダーないしレーサーを生み出している。その法則とは親と似たトリ、もしくは全く異なるタイプのトリを落とすといったもの。性別は決まっており、親がオスであればメス。メスであればオスといったもので、以後はオスメス交互に代を落としていく。これは栗鳩の作出セオリーからヒントを得た手法である。
また近年着手している近親交配については、血統よりも個体を重視し、タイプの異なるもの同士で配合するよう務めている。果たして種鳩の選定から作出論に至るまで、正解かどうかは成績を見れば一目瞭然! 素材を上回るトリを創出する「委託の魔術師」福田佰和には、注目である。
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★フェルホールト系ゴールデンカップル♂
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父)B01-6135267 B フロール=フェルホールト作 フィーネケ5000の兄弟×ヘットウィットペネケ 母)B99-9153073 宮下ベルギーロフト作 ヴィクトール=クリスチャン系 |
父)B02-6175580 B フロール=フェルホールト作 孫/つくば国際鳩舎広島選手権700K全国2位 母)04KA32726 BC 福田佰和鳩舎作 ヨング・シャンテリー(ヤンセン)直子×ルーテンツ |
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★08年埼玉連盟エースピジョン賞1位
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父)ブラザーボリュート 08MM02661 BC 福田佰和鳩舎作 全兄弟/CHボリュート(右) 母)Big Mama 07MM05651 B 福田佰和鳩舎作 祖父)B02-6175580 B F.フェルホールト作 直子/ラプターⅠ(上右) 孫/つくば国際鳩舎広島選手権700K全国2位 祖母)B02-9029272 BC 宮下ベルギーロフト作 |
父)ラプターⅠ(上右) 05MM04363 BC 福田佰和鳩舎作 フェルホールト作×ヤンセン・ルーテンツ 兄弟の直子/東京中Rg総合7位 母)クレヨネ326(上左) 05MM04326 B 福田佰和鳩舎作 フェルホールト系×クリスチャン系 |
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★元A&P=デズメット最高配合♂
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父)ド・スーパーツールⅧ B00-4165078 ド・スーパークラックⅠの近親 デン・ツール(KBDBナショナルエースピジョン賞2位) ×ミスワールド(KBDBナショナルエースピジョン賞3位) 全兄弟/デン・ブリーヴ(ブリーブN13位) 全兄弟の孫/2012年ナルボンヌIN最高分速 母)ローラ B97-4225171 リモージュ優勝の兄弟の娘 |
父)ド・プロビンシャル B01-4088159 B アンドレ&パトリック=デズメット作翔 シャトローIP優勝 ヨングロナウドⅢ×ファーストレディ 全兄弟の孫/2012年ナルボンヌIN最高分速 母)ブラウ B98-4270125 |
【福田佰和鳩舎の主な活躍】
★選手鳩委託の実績 |
【高橋三郎鳩舎にて】 2008年春埼玉連盟エースピジョン賞1位&東日本CH1000K中地区当日1羽帰り優勝 |
2010年春埼玉議長賞600K5,618羽中総合11位(埼玉南部連合会優勝) |
2010年秋埼玉連盟中地区400K2,962羽6位 |
【山口宣之鳩舎にて】 2009年春飛翔会CH800K2,323羽中総合10位(東京GP1,342羽中総合9位) |
2010年春飛翔会CH800K総合優勝(東京GP1,671羽中総合優勝) |
2010年秋東京中Rg400K796羽中総合6位 |
【リバーサイドロフトにて】 2008年春リバーサイドカップ300K優勝 |
2011年春平成千葉300K3,968羽中総合優勝 |
2011年春平成千葉Rg500K3,999羽中総合4位(千友会6,339羽中総合6位) |
【石井 久鳩舎にて】 2010年秋千葉Rg400K1,717羽中総合8位 |
【岩井利行鳩舎にて】 2011年春千葉東Rg500K3,853羽中総合8位 |
★種鳩の実績 |
【福田鳩舎作の直子】 2009年春ジャパンカップ1000K総合9位・千葉ゾーン2位 |
2011年秋つくばね菊花賞400K総合優勝 |
2012年春平成千葉地区N600K総合優勝 |
2012年春千葉TV杯600K総合5位 |
2012年春伊賀国際鳩舎国際ダービー400K若鳩部門全国2位 |
2012年秋埼玉Rg500K総合3位・中地区優勝 |
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