写真●POPPO.NET 取材・文●POPPO.NET
現在、日本鳩界の平均年齢は60歳を過ぎたといわれており、名門・群馬中央連合会の重鎮たちもまたこのカテゴリーに入る。がしかし40代前半の細井康弘氏は、学生時代から彼らに真っ向から挑み20代後半には地理的ハンデがありながら連盟トップレベルに到達。自鳩舎の飛び筋のみならず異血を操ることに長ける細井氏は、全国への飛躍が期待される若きフライターだ。それを担うのは3羽のブリーダーないし銘血。自身が秘蔵と語る3羽――つくば国際鳩舎で唯一1000Kから帰ってきた伝説の超銘鳩‘ロンリーガール’にリモージュProv.優勝‘ド・リモージュ’、そしてつくば国際鳩舎で全国優勝鳩を輩出している、CHブリーダーベルジュラックN優勝‘ド・クライネ’の血筋を見る。
▲名門・群馬中央連合会で学生時代から戦い、20代の後半には連盟屈指のフライターへと成長を遂げる。30代で仕事の多忙を機にレースを中断。再開後もその勢いは増し、2006年には全国タイトル‘準地区CH賞’を獲得した。異血同士の配合で飛ばすことに長けており、数々の活躍鳩を誕生させている。
種鳩の資質を見抜く才
細井康弘氏は1969年生まれ。日本鳩界においては“若手”の部類に入るこの世代において、レース歴は30年近くとベテラン顔負けのキャリアを誇る。しかも単にキャリアを重ねてきたわけではない。群馬中央連合会――クラウン賞鳩舎を2人輩出したセミプロ集団に10代から揉みに揉まれてきた。そのため作出から競翔、種鳩選定に至るまで徹底的に鍛えこまれ、彼が鳩舎を構える場所は帰還コースから大きく外れており、活躍は至難の業と言われてきたが、20代半ばにしてそのジンクスを払拭。連盟トップクラスのフライターへと大きく成長する。一時、仕事の多忙を理由に5年ほど中断するも再開後その爆発力は変わらず。2006年に全国タイトル、準地区チャンピオン賞に選定されると、その翌年には西関東ブロック主催の3レース――GP、CH、GNの全てで総合1桁入賞を果たし、名声を地元・群馬から西関東、そして全国へと広めた。
原動力は自鳩舎の源鳩‘レジョナル5’――ヤン・アールデンの銘血で練り上げられ、つくば国際鳩舎で700K全国10位、200K全国4位、西関東GNで総合4位を獲得した‘ファーストシングル’にも流れる飛び筋――と言いたいところだが、それ以上に輝き
を放ったのは異血バードだった。中でも全国への一手――準地区CH賞獲得のポイントゲッターとなった‘マグナム’はそれを象徴する1羽だ。父はジョルジュ=ボレーのブールジュN6位‘ブールジュⅠ’の孫で、母鳩はトレスコーはトレスコーでも地区CH賞の常連、林 祐和氏が新たに練り上げた‘林トレスコー系’。完全な異血交配で誕生していた。「スピード×長距離、安定感」の配合式通り、2005年秋に菊花賞優勝。翌春にはコンスタントに上位入賞を重ね、上武連盟の長距離エースピジョン賞を獲得する。大役を果たしたこの異血チャンピオンは種鳩としても秀逸で、翌年の西関東オールシングルに一役買った。シーズンを終えてまもなくとった直子の1羽が、西関東GP総合7位、連盟で3位に入賞したのである。ペアは源鳩ではなく、クリンチェライン――異血
であった。 この‘マグナム’自身は、なかなか子供ができにくい体質であるものの、その末裔は細井鳩舎に必ずといっていいほど活躍する。今では‘レジョナル5’に匹敵する飛び筋だ。
細井氏はこの‘マグナム’や2007年西関東オールシングルの1羽、西関東CH総合3位鳩‘トレスコーG(地元の飛び筋×林トレスコー系)’、2007年秋の菊花賞総合2位鳩‘グリズルレディ(ヨス=トーネ×地元の飛び筋)’など異血同士で活躍鳩を生み出すことが得意だ。とはいえそれは良い種鳩と巡り合わなければ実現することは困難なことであり、そこには素材を発掘する能力が必要となる。つまり細井氏は種鳩の資質も見抜く選鳩眼を備えているのだ。
それをさらに裏付ける出来事がある委託鳩舎で起きていた。‘レジョナル5’、または‘マグナム’でもない全くの異血交配「フェルテルマン父子×クリンチェ・ファンデウェーゲン」というパターンで400K、500K連続優勝というスーパーチャンピオンを輩出。しかもこの全兄弟が今年も同委託鳩舎で700Kを制したのである。この両親、祖父母もまた自らの感性を頼りに手にした種鳩であった。
「今まで導入してきた種鳩で賞状1枚もとれなかったのは1、2羽くらいしかいないかもしれません」。
異血導入において抜群の成功率を誇る細井氏。その彼が選ぶ種鳩は、いかなるものなのか。ベルギー最強・ヨス=トーネの‘ヴァレンティノ’、ブールジュの名手・グリート&クララ=フィリップスの‘ナパン’、フェルテルマン父子の‘コース’といった銘血バードから、実際に優入賞を果たしたチャンピオンとそのラインナップは、やはり充実している。中でも‘ロンリーガール ’、‘ド・クライネ’、‘ド・リモージュ’の3羽は細井鳩舎において別格の位置付だ。
さて‘ロンリーガール’と聞いて「あ!」と思う方は多いはず。つくば国際鳩舎における14年の歴史の中で唯一1000Kを翔破した伝説の1羽――あの‘ロンリーガール’である。ヘクトール=デズメとカイパー兄弟の銘血で構成され、2002年に八郷国際鳩舎国際オリエンタルカップ700K全国3位鳩‘ネバーエンド’を輩出。ブリーダーとしても秀逸だったこの1羽は、もともと日本伝書鳩協会専務にして同じ群馬県に鳩舎を構える新井博久氏の下で活躍していた。がしかし細井氏の‘レジョナル5’の系統とで共同作出した1羽がつくば国際鳩舎広島選手権700Kで全国10位入賞。これを機に‘ロンリーガール’の導入を決意する。とはいえこれほどのチャンピオンである。首を縦に振るわけがなかった。が細井氏の鳩レースに対する情熱に新井氏が応える形で共同保有という形となる。悔しくも2011年に‘ロンリーガール’はこの世を去ったが、直子はわずか
ながら残っており、伝説の遺伝子は継承されている。
続いてはオランダ長距離界の名匠・クラース=コンパーニュ氏が作り出した傑作品‘ド・クライネ’だ。リモージュとルフェックと2つのナショナルレースを制した超銘鳩‘ナイトフライヤー’の末裔にして自身もベルジュラックNを制覇! 細井鳩舎において長距離の切り札的存在である。しかもこの筋はすでに実績が挙がっており、2008年に超耐久戦となった関東支部連盟GVで同系が総合2位、2009年にはつくば国際鳩舎国際レース300Kで ‘ド・クライネ’の孫鳩がコンマ差の接戦を制し全国優勝。タイトルがタイトルなだけにこの銘血が一躍脚光を浴びたのは言うまでもない。
最後のスペシャルバードは‘ド・リモージュ’。その名の通りリモージュを制したこのチャンピオンは、ヤンセン系を主とした生粋のスピード血統で構成。1発の切れ味があり、‘ド・クライネ’が長距離なら‘ド・リモージュ’は短・中距離の切り札だ。12歳と高齢であるが、最近まで現役ブリーダーとして良鳩を輩出していたと言う。
すでにこの3羽の筋はローカルレベルではあるが、細井氏の下で確かな実績を残している。が、いずれも血統あるいは翔歴から見てそれだけでは物足りないのはいわずもがな。今後
‘ロンリーガール ’、‘ド・クライネ’、‘ド・リモージュ’の末裔が、全国に向けて爆発することを期待したい。(了)
|
|
[an error occurred while processing this directive] |
[an error occurred while processing this directive] |
[an error occurred while processing this directive] |
[an error occurred while processing this directive] | [an error occurred while processing this directive] |
[an error occurred while processing this directive] | [an error occurred while processing this directive] |