写真●POPPO.NET 取材・文●POPPO.NET
愛鳩家なら一度は白鳩を使いたいと思ったことがあるはずだ。がしかし、現実は能力の問題、あるいは目立つ為猛禽類にやられやすいなど、レースに勝つどころか、参加させることさえ難しい。そのため純粋にレーサーとしてもブリーダーとしても戦力として使うことを避けてしまいがちである。
委託鳩舎のパイオニアで ある上野裕介氏が築いた「ホワイト銀河系」はその常識を覆す銘系だ。白鳩の血統でも実践的に練り上げられており、レースも参加はもちろん、活躍も必至! 特に短・中距離では抜群のスピード性を魅せる。またもし灰、灰胡麻の羽色がでたとしても今度は長距離に強いため、この飛び筋は結果的にオールラウンドに飛ぶのだ。白鳩の万能血統というべき、この「ホワイト銀河系」について紹介する。
▲委託鳩舎のパイオニア、国内屈指の飛ばし屋というイメージが強いが、上野裕介氏は系統確立者としての顔も持つ。彼の築いた「ホワイト銀河系」は「見てよし、飛んでよし」と、国内では希少な白鳩の実践血統だ。今年の超難戦となった東日本CHとジャパンカップでも「ホワイト銀河系」の白鳩はきちんと入賞圏内に入っている。
委託鳩舎のフロンティアが築いた白の銘系
上野裕介氏といえば、リバーサイドロフト、インターナショナルロフトの会、北日本レース鳩委託鳩舎など全国で巻き起こった「委託ブーム」のパイオニア的存在だ。もともと上野氏は東京都大田区でわずか半畳の鳩舎、いや鳩小屋で鳩レースを戦っていた。がしかし「広い土地で目いっぱい鳩レースを楽しみたい」という思いから2000年に千葉県東金市に移転。単に自分が飛ばすのではなく、飼いたくても飼えない、飛ばしたくとも飛ばせない愛鳩家たちからレース鳩を募り、作出者の変わりに飛ばす――「委託鳩舎」を設立した。た
▲2000年に千葉県東金市に委託鳩舎を設立。リーズナブルな委託料に加え、鳩を飼えない方には委託鳩の提供、個人名義で鳩レースを楽しみたい方には分有鳩舎と、ユーザー主体のサービス、そしてどんな展開でも1000K、1100Kまで闘い抜ける確かな競翔手腕から、国内屈指の人気を誇る。
だし自分1人ではなく家族みんなで鳩レースを楽しむ、という上野氏の趣から「上野裕介委託鳩舎ファミリー」と名づけられる。
以降の輝かしい翔歴は、周知のとおりである。総合レースでのシングル入賞はもちろんのこと全国タイトル――地区CH賞も獲得。2009年には全国で4番目の入賞率を叩き出し、もし分有鳩舎(ワンロフト内で名義を複数登録)でなければ、全日本優秀鳩舎賞、いわゆる「三賞」受賞は間違いなかったと言えよう。なにより1000Kが得意で、どんな展開でも必ず上位にかつ多く帰す。その象徴が史上最悪と言われた2006年の東日本CHで千葉ブロック最多の羽数を帰還させたことだろう。また2012年春も難戦となった関東3大長距離において、分有鳩舎を含めると58羽も帰還! その安定感はやはり国内トップクラスだ。
その確かな手腕と鳩をこよなく愛する人柄、そして種鳩を持てない人には委託鳩の提供、そして個人名義でレースを楽しみたい人には分有鳩舎を導入するなど、委託者目線のアイディアは、ユーザーのハートをがっちり掴んだ。年を重ねるごとに委託者の数は増え、当初は関東だけだったのが、北は北海道、東北、西は関西、中国、四国、そして九州と全国各地から希望者が殺到するまでに至る。現在もその人気は衰えることなく――むしろ近隣への配慮から羽数の制限をかけている為、委託する権利を勝ち取るのが難しくなっているのが現状だ。がしかし上野氏は1人でも多く鳩レースの魅力を知ってもらいたい、楽しんでもらいたいという気持ちが強い。そのため相談さえしてもらえば、受け入れに対し柔軟に対応してくれるようだ。
上記の通り、上野氏は「委託鳩舎のフロンティア」、もしくは「日本屈指の飛ばし屋」など競翔家としてのイメージが強い。それに決して誤りはないのだが、実は上野氏には知る人ぞ知るもう1つの顔がある。それは作出家――系統確立者としての顔だ。しかもただの系統ではない。飛ばすことさえ非常に困難であるがゆえ、日本国内ではわずかしかない実践的な「白」の飛び筋である。
「ホワイト銀河系」と名づけられたその飛び筋は、東京時代からじっくりと練り上げられたものだ。といってもそもそもこの血統は、2つの飛び筋との融合によって作られたもの。1つは本流といって過言ではない「銀河系」。これはモーリス=フェルハイエ、アンドレ=フェルハイエ、そしてロジャー=フレーカーにファンネと各世代ベルギーで最強と謳われたレースマンたちの飛び筋で作られた系統で、長距離に強いというのが特徴だ。代表鳩は1993年千葉ブロックGP総合2位の‘銀河GP’。この1羽はブリーダーとしても秀逸で、源鳩的存在でもある。
もう1つは系統名こそないが白鳩の飛び筋だ。もともと上野氏は舎外するに見栄えがいいということで色鳩をつどに導入。その中に基礎鳩となるトリがいた。それは1992年生まれの白鳩で短距離で8回上位入賞のチャンピオンバード。かの白鳩の名手、カルドン氏が基礎鳩にしていたファンデンブランデン作のトリで、血統的には長距離に強い「ヘクトール=デズメ」が色濃く流れていた。当初はお遊び的な要素が強かったが、銀河系のトリとクロスして誕生した‘W銀河レオ’――白鳩レーサーが1000Kレース3回入賞したことで一変する。
距離を問わずに白鳩がレースで活躍することは難しい。もともと白が出る傾向は遺伝学的には退化の象徴で、しかも色が目立つだけに猛禽類に狙われやすいというデメリットもある。それが1000Kで3回も入賞したのだから、スゴイと認めざるを得ない。と同時に上野氏はこのホワイトに大きな可能性を見た。結果、本筋「銀河系」のパートナーに採用する。
しかも系統強化のためにとデズメット=マタイス、ファンデウェーゲン、ニコ=フォルケンスといった名門の長距離血統を、そしてなんとインターナショナル優勝鳩の直子やナショナルレースの入賞鳩までも贅沢にクロス。色物でなく本物を――。ここに上野氏の本気度が伺える。そして幾度となく配合を繰り返し練りあがったのが、銀河系を改め「ホワイト銀河系」であった。
灰、灰胡麻と白鳩。相反するものの融合の結果、その特性はおおよそ2タイプに分かれるようになった。おそらく先祖還りによるものだと思われるが、灰胡麻がでると銀河GPのように800K~1100Kと長距離に強く、白が出ると短中距離に強いスピードバードが生まれるということである。その最たるは直子に5,000羽以上参加した千翔会スプリント500Kで総合2位相当の分速をマークした俊鳩を持つ現・代表鳩‘ラ・バレリーナ’だ。ホワイト銀河系の先駆けである先述の‘W銀河レオ’の直子にして、銀河GPの血統を色濃く反映させたこの白鳩は、2005年秋の菊花賞500Kで総合6位に輝いている。
血統的相性については、先述の‘ラ・バレリーナ’然り、実績を見ると、同系同士が1番のようだ。といっても輸入鳩を直接クロスしても、これまたいいトリが作れる。実際、「輸入×ホワイト銀河系」で優入賞鳩がたくさん生まれており、近年はファン
ダイクやマルセリスの筋と当たっているようだ。反応がいいのは、銀河系時代より系統確立の為、あらゆる名門血統を流し込んだゆえかもしれない。かくにも「ホワイト銀河系」は使いやすい上、全距離対応できる、まさに万能血統だ。
しかもこの万能性はレーサーとしての能力だけに当てはまるわけではない。美しさも兼ね備えているのである。過去に千葉ブロック連盟主催の品評会でチャンピオンクラス1席を輩出しており、まさに才色兼備!しかも2011年にはこの美鳩の直子が同じくチャンピオンクラス1席――しかも総合1席に輝いたのである。上野氏にとって初となるこのタイトル。それをもたらしたのは、なんと白鳩!しかも2008年の秋に千葉東Rgで総合19位、翌春の千翔会600Kで総合10位を射止めたチャンピオンであった。
見てよし! 飛んでよし! 上野氏が築いた「ホワイト銀河系」は、レース鳩にとって理想の領域に到達しつつある。(了)
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